温知会について
理事長挨拶

この度、温知会のホームページが開設され運用が開始されました。この温知会ホームページは、その母体である京都大学婦人科学産科学教室のホームページとリンクしております。
ご承知の通り、京都大学婦人科学産科学教室は1899年に創設されました。昨年7月には教室創設120周年記念事業が行われましたが、温知会は1914年に教室の第2代高山尚平教授により同窓会として発足しました。それ以降、半世紀に亘って温知会は会報や名簿の発行というアナログ機能を介して、会員相互の情報伝達網としての役割を果たしてきました。
戦後わが国の経済復興が遂げられるに伴い、教室にも学会開催など様々な形で経済活動が求められるようになりました。そのような事態に対応するため、第4代三林隆吉教授の時代(1958年)に三林教授の同級生であった横田 亨先生を初代理事長として温知会に理事長制が発足しました。その目的のひとつは、純粋に医学的な事柄は教室に、そして経営的な事柄は同窓会で分担しようとしたのではないかと思います。その後、温知会は60年の間に6名の理事長により、親睦を目的とした単なる同窓会から教室を物心両面で支える後援会組織として活動してきました。
この間、大学を取りまく環境は、インターン制度から研修医制度への転換、初期臨床研修必修化、専門医制度の導入、大学の独立法人化、産学共同研究や競争的資金の導入など、めまぐるしい変化がありました。そして、温知会事務局の形態や運営は、時の教室主任の方針により多少の変遷はありましたが、その基本的使命である「教室と会員(関連病院や開業医)との調整役」としての機能は変わりません。
さらにこの20年間の女性の社会進出に伴い、医療の分野、特に産婦人科領域でも女性医師の割合が著しく増加しました。今や女性医師の妊娠・出産・育児に対応できない病院では医師確保が難しい時代となっています。今後は、女性医師がsubspecialtyを含めた産婦人科医師としてのキャリアを継続し発展できる環境を、教室と温知会が一体となって一層充実させていくことが求められています。
もうひとつの社会的変化は、情報通信技術が進歩し普及したことです。近年のcommunication technologyの進歩により、スマホのタッチパネルに触るだけで、四六時中、車の運転中でさえ、世界中からあらゆる情報を入手でき、また、世界中の人と繋がることができます。この情報化社会は、個性の喪失という負の側面もありますが、作業の効率化や省力化といった正の側面もあります。ひとは個性を持つことによって自己と他者の境界を認識することが可能となります。確固たる個性を持ち他者を許容することで初めて、情報の激流を流されずに生きることができるのではないでしょうか。すなわち、多様な個性の集合体である組織が健全に機能するためには、情報の共有と合意形成が必須であると思います。情報の独占(統制)や構成員の画一化は、組織の効率的な運営には有効であるかも知れませんが、新しい発想や価値の創造を阻害します。これは、教室とか温知会といった小さな組織にも当てはまることで、構成員の個性を認め多様性を許容することによってのみ、持続的な発展と成長が可能な組織を維持できると思います。
この度、温知会ホームページを開設するにあたり、教室のホームページと相互にリンクできることとなりました。100年前から会員相互の情報交換ツールとして1年に1回発刊されていた温知会会報が、情報通信技術の進歩の恩恵を受けて、空間的および時間的制約から解放される可能性を意味していると思います。将来的には、従来型の教室から会員への一方通行の情報拡散だけではなく、個々の会員からの情報発信が何時でも行え、様々な情報を教室と温知会会員がreal timeに共有できる機能も検討したいと思います。このホームページが、教室ならびに温知会の持続的発展に貢献できること期待します。
(2020年2月 記)
温知会理事長
佐川 典正