当科紹介

はじめに

四季折々に美しい表情を見せる鴨川の東、五山の送り火で有名な大文字山を間近に見る左京の地に、私たちの教室はあります。京都大学の産婦人科は明治32年 (1899年) の創設以来、100年を越える伝統をもつ診療科であり、本邦における広汎性子宮全摘出術の祖である第3代の岡林秀一教授など世界に名を知られる多くの産婦人科医を輩出してきました。

現在、教室には、教授1名、准教授1名、講師3名、助教9名、病院助教3名、医員1名(専門医取得後)、専攻医(産婦人科専門研修医)12名、大学院生17名(うち留学生1名)の47名が在籍しています。教室には昔から他大学出身のスタッフも多く、学閥などの閉鎖的雰囲気は全くありません。また、准教授をはじめ臨床・研究指導を行っているスタッフは40歳代前半と若く、自由闊達な雰囲気の中、全員で力を合わせ診療・教育・研究に邁進しています。ここでは私たちの教室が行っている診療・教育・研究の特徴を中心に紹介します。

1. 診療

外来は婦人科腫瘍、周産期、生殖の3つの柱に加えて、女性ヘルスケアの外来を設け、各専門分野のエキスパートがきめ細やかに女性の生涯にわたる健康を支援しています。病棟は婦人科が52床、産科が26床あり、合計で毎月およそ250名の患者が入院します。入院患者の診療は主に婦人科、産科それぞれ3名(病棟医長1名、副医長2名)の病棟スタッフと、医員および専門修練医(産科・婦人科を同時に担当)がペアを組んで行っています。治療方針は教授回診後に行われる教室カンファレンスで討議し決定します。立場の異なる医師が真摯な姿勢で症例に向き合い、様々な観点から意見を戦わせ最善の方針を模索した結果、事前に病棟スタッフが考えていた方針が覆ることも稀ではありません。

婦人科腫瘍

子宮頸部・子宮体部・卵巣の新規悪性腫瘍患者数は年間およそ150例あり、近年、悪性腫瘍に対する鏡視下手術が急速に増えています。鏡視下手術の技術や器具の進歩により、子宮体癌に対する単純子宮全摘+骨盤リンパ節廓清(保険)のみならず、腹腔鏡下の傍大動脈リンパ節廓清(臨床研究)や、子宮頸癌に対するロボット支援下手術(自費診療)も安全に行えるようになりました。鏡視下手術は手術の傷が小さく体への負担も少ないため、短期間での回復と早期社会復帰の実現に寄与しています。一方、再発腫瘍や卵巣癌では腫瘍を完全に取りきることにより根治性を上げることができるため、外科・泌尿器科・血管外科など他科と協力し他臓器切除を含めた拡大手術も積極的に行い、良好な治療成績を治めています。また、基礎研究の成果を臨床に還元すべく、世界に先駆けて当科で開始した再発卵巣癌に対する免疫療法や日本人に多い難治性の卵巣明細胞癌に対する分子標的治療の治験も行っています。

周産期

年間の分娩数はおよそ350件であり、正常妊娠はもとよりSLE、甲状腺機能異常、てんかん、糖尿病など内科疾患合併妊娠、心疾患や脳血管疾患合併妊娠、がん合併妊娠、肝移植後の妊娠など様々な合併症妊娠を関係診療科と連携し管理しています。また、重症妊娠高血圧症候群、前置胎盤、常位胎盤早期剥離、重症胎児発育不全、超早期の前期破水などリスクの高い妊娠合併症も数多く取り扱っています。さらに、京大病院では、全診療科・全診療部門の合意のもと、24時間体制で、母体の生命が脅かされている重症妊産婦を搬入可能な周産期救急体制が確立しています。例えば、意識障害、重症妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離、産科出血、ショックなどの妊産婦は、産科医のみの判断で関連科の承諾なしに直ちに受け入れることが可能であり、年間およそ100件の産科救急を搬入しています。周産期医療のさらなる向上を目指し、対応に苦慮することの多い、産科出血、癒着胎盤、重症妊娠高血圧腎症、慢性早剥羊水過少症候群を対象とする臨床研究を行っています。

生殖

難治性の不妊、子宮内膜症合併や内科的合併症を持つ患者さんが多く、個々の病態に応じて、腹腔鏡手術を含む手術療法や、タイミング療法から顕微授精を含めた体外受精-胚移植まで、段階的な不妊治療を行っています。さらに、着床不全を原因とする難治性不妊症に対しては、独自の基礎研究より確立した自己末梢血リンパ球を用いた免疫療法も行っています。また、近年、若年がん患者に対する治療寛解後の妊孕(にんよう)性温存への配慮という視点から、「がん・生殖医療 (oncofertility)」が注目を集めています。私たちは、原疾患の治療が最優先であることを前提に、将来妊娠する可能性を残すことを目的として、京都府内の関係診療科のがん治療専門医と連携して(京都・がんと生殖医療ネットワーク(KOF-net))、卵子凍結・卵巣組織凍結を含むを含む様々な方法でがん・生殖医療を実践しています。

ヘルスケア

月経周期やライフステージの変化に関連して生じる病態や症状、具体的には無月経、月経困難症、月経前症候群、更年期障害などに対してエビデンスに基づいたホルモン療法を行い、場合によっては漢方療法も取り入れています。心理社会的要因が病態の背景にあることも多く、患者の生活習慣改善やセルフケアを促進するために診療の中では傾聴と対話も重視し、患者の自己効力感を引き出すように心がけています。

2. 教育

私たちの教室には毎年全国から素晴らしい若者が集い、専攻医や医員として1年間、研鑽を積んでいます。プロフェッショナルへのスタートをどのように過ごすかは非常に重要であり、専攻医1年目は必ず大学で研修を受ける教育体制にしています。また、他の施設で研修を受けた専門医取得前後の医師の入局も歓迎しており、共通の価値観を育むため1年間の大学研修を行っています。当教室では京都大学のアカデミックで自由な学風のもと、伝統的に若手の育成に力を注いでいます。多様な連携病院のもと、医局員ひとりひとりの幸せを常に考え、スタッフは専攻医の皆様の期待に応えられるよう一丸となり指導にあたっています。また、基礎研究・海外留学や様々な国内研修についてもサポートを行っております。

教室には様々な分野の指導医が在籍しており、責任をもって専攻医や医員の皆様が様々な経験をして頂けるよう指導にあたっています。専攻医には入局後早期から子宮全摘や帝王切開などの手術を執刀してもらってはいますが、私たちがプロフェッショナルな産婦人科医を育成するうえで最も重視しているのは手技の習得ではなく、医師としての姿勢や心構え、論理的・客観的思考です。患者の声に耳を傾け、実際に触診し、様々なデータを論理的・客観的に解析し、身内に施すように手を抜かずに最善の治療を提供するという当たり前のことを、日々の診療やカンファレンスで習慣づけています。専攻医や医員は、個々の症例について自ら調べて疾患の本質に迫り、治療方針を検討し、毎日指導医らと討議することで論理的および客観的に考える力を高めます。さらに、サマリー作成、回診・カンファレンス・勉強会での発表、学会発表や論文作成を経験することで論理的・客観的思考に磨きをかけます。毎週開催される病理、画像、放射線治療、周産期カンファレンスでは、各診療科のプロフェッショナルと討議を行い、幅広い知識を吸収します。このように、若手医師はプロフェッショナルな産婦人科医になるための基盤を大学で培い、同期というかけがえのない仲間、多くの先輩医師とのつながりを得るなど有形無形の様々な財産を手にして、1年間の研修を終えると連携病院に巣立ちます。

私たちの教室では、諸先輩が築き上げた教育体制が確立しており、若手医師は、狭い世界に埋没すること無く、大学や連携病院でロールモデルとなる様々な魅力ある先輩に出会うことが可能です。また、どこの連携病院に赴任しても高度かつ安定した研修を受けることができます。私たちは、この教育体制は世界に誇れるものだと自負しています。

3. 研究

臨床的視点から、ゲノム解析に基づく病態の解明や新規オーダーメイド治療の開発を目指し、独創的な基礎研究を行っています。例えば、基礎の研究室と共同で研究・治験を進めてきた、がん免疫逃避機構を克服する新規分子標的治療(抗 PD-1 抗体)は、近い将来、有効な治療法のない再発卵巣がんの患者への福音になると期待されます。

私たちの教室では、大学院生は4年間、臨床や外勤のdutyがほとんどなく、研究だけに専念することが可能です。臨床を長期間離れることに不安を抱く若手医師もいますが、研究生活を経験することで、客観的な立場で自分の考えを批判的に検討し、論理的な結論を導き出す能力が高まるため、その後の臨床力も飛躍的に向上します。また、希望者には海外留学を積極的にすすめています。

おわりに

桃李不言 下自成蹊。私たちの教室は、皆が自然と集いたくなる場所であり、質の高い医療、人材育成、臨床に役立つ夢のある研究を、チーム一丸となって目指しています。しかし、全国の新規産婦人科医師数は依然少なく、このままでは、近い将来、女性の健康が脅かされる可能性があります。私たちは、最近、学生の講義や実習をさらに充実させ、より多くの学生が、産婦人科医を志してくれるよう、教室員一同、全力で取り組んでいます。

京大病院 産科婦人科では

  • 産婦人科専門修練医
    (対象:卒後3年目あるいは他病院の専門研修プログラム中)
  • 産婦人科医員
    (対象:産婦人科専門医取得前後)

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京都大学医学部婦人科学産科学教室