専門研修について

当科での研修をかんがえておられる先生へ

京都大学医学部婦人科学産科学教室 
教授 万代昌紀

産婦人科医として一人前になるためには専門研修は大変重要です。
先生方は長ければ今後30年、40年にわたって産婦人科医として生きることになるわけですが、最初の数年間に何をどのように学んだか、は一生の自分の医療の質を決めると言っても過言ではありません。
では、その最初の専門研修をどこで始めようか?
先生方はきっと日々、迷っておられると思います。

ちょっと次の質問が正しいかどうか、答えを考えて見てください。
#研修ではできるだけ多くの症例を見るほうがよい
#手術はできるだけ早くから始めたほうがよい
#ガイドラインに従って標準的な診療を身につけるべきである
#すべての分野をまんべんなく学ぶべきである

どうでしょうか?
私はすべて基本的には正しいと思っています。ただし・・・、これは現時点でできあがっている医療と同じことを将来も先生方がやっていく、と仮定した場合です。しかし、現実はどうでしょうか?

いま、医療はとてつもないスピードで変化しています。
意外なほど近い将来に、診断の多くはAIがおこない、手術教育はシミュレーションが中心になり、ガイドラインが廃れて個別化診療が普及し、その結果、AIを凌駕できる高度な専門性を持つ医師だけが生き残れる、そういう医療体制が出現することはほぼ間違いないのです。そのような時代に今、おこなわれている医療のみを想定した研修を受けるだけで大丈夫なのでしょうか?

われわれは、どのような時代が来ても対応できる考え方、学び方を会得した、柔軟性を持った医師を育成することを目指しています。大学ならではのコンテンツを最大限に活用することで、単に最先端、ということではなく、本質的に次の世代に求められている技能・技術・思考法を身につけて、自信を持って今後の20年を切り拓いていける実力をつけてもらうことができると思っています。もちろん、たちまち必要なノウハウを十分に研修してもらうのは当然ですが、同時に、その続きとして今後の羅針盤となる何かを専門研修のうちに身につけてほしいと思っています。

たとえば、現在、当科では専攻医の手術教育は腹腔鏡を中心におこなっています。入局後、数か月から簡単な腹腔鏡手術の執刀をしていただきます。何故なら腹腔鏡は急速に普及しつつあり、今後、婦人科手術の大部分は腹腔鏡でおこなわれるようになるからです。
しかし、それだけで十分でしょうか?

当科は日本で最初に手術ロボットダヴィンチによる本格的な神経温存広汎子宮全摘術を始めました。婦人科ではロボット手術が保険収載され、2年後には国産機ふくめて多種類の手術ロボットが市場に導入されることがわかっており、今、研修を始める先生方は将来、自分が執刀する手術の多くをロボットでおこなうようになるわけです。
それがわかっていながら、旧来の開腹手術のみを長い時間をかけて教えてもらっても意味があるでしょうか?

子供がそろばんを習うのは意味がないとは思いませんが、私は若い先生にこそ、コンピューターの手ほどきをしたいのです。現在の先端技術はあっという間に普及技術となり、若い先生方はそれを自由に扱えるようにならなければいけません。であれば、そのような技術や思考法に早く接したほうが良い、というのが私の意見です。

京都大学病院プログラムでは有名な大病院から中小病院までさまざまな特徴を持った関連病院と連携して専門研修をおこなっています。若いうちに地域性や規模や診療特性の異なる医療を経験することは診療の基礎体力をつけるうえで大変重要です。
関連病院間は密なつながりがあり、研修会等でひとのつながりを保つと同時に、診療面でもレベルの向上を図っています。関連病院・同窓会全体で人材育成をする、という伝統を持っています。さらに、現在、遠隔会議システムを用いた大学と関連病院間でのテレカンファレンスの立ち上げを準備中です。小規模の病院に赴任しても診療の判断に困ることがないように、最新の知識を吸収し続けることができる体制整備を進めています。

当科での専門研修は決して安易ではありません。必要な知識や技量は厳しく教えます。それによって1年間で正常分娩・異常分娩問わず何とか対処できるようになり、腹腔鏡を含めた手術が何とか自分で執刀できるようになり、婦人科病理が見られるようにあり、MRI含めた画像が自力で読めるようになります。
これらは、その後、一般病院で豊富な症例を経験するうえで必須の基礎技量であり、これなくして症例数のみこなしても実力は上がりません。

これから産婦人科医を目指される先生、医者人生は長く、どのようにやっても山もあり谷もあります。そして医療の激動の時代に生きて行かなければなりません。その最初の段階で最善のスタートを切れるよう、われわれは当科の専門研修プログラムを自信を持って提供します。京都の美しい街並みの中で研修をしてみませんか?

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専門研修プログラムの特徴

1.多様性に対応するプログラムを、共に考えます

京都大学研修プログラム(京大プログラム)では、日本産科婦人科学会産婦人科専門医プログラムに基づき、基幹病院(京都大学医学部附属病院)を6か月以上、地域病院を1か月以上、および連携病院で研修を行うプログラムを提供しています。

近年は働き方が多様化し、入局を考えている先生に一つのプログラムを当てはめることが難しいと考えています。そこでさまざまなニーズに対応するために、いくつかのモデルプログラムを用意し、個人に合わせて選択できるように勧めています。もちろん、これ以外にも個人の希望により変更が可能です。皆さんの将来のイメージを描くのに参照してください。

京大プログラムの一例

▲産婦人科専門医取得▲サブスペ専門医取得

京:京大、地:地域、院:大学院、大スタ:大学スタッフ、サブスペ:サブスペシャリティー

2.豊富な症例、多くの疾患病態に触れられます

大学病院ならではの稀少症例や重症症例、緊急症例が勉強できるのはもちろんですが、いわゆるCommon diseaseも多く、全般的な産婦人科プライマリケアが体系的に勉強できます。どのような複雑な症例でも基本的な考え方、原則にしたがえば正しい診療ができます。研修では1例1例をどのように考えるかを徹底的に習得します。さらに、関連病院はいずれも地域の中核病院であり、豊富な症例を経験できます。

3.安心できる指導体制での研修が可能です

すべての患者は主治医を担当します。上級医(指導医)と必ずペアで担当するため、上級医と相談しつつ、できるだけ患者さんの診断・治療法を主体的に決定できるようにしています。

4.豊富なカンファレンスを通して、広い見識を学べます

毎週月曜日に病理カンファレンス、水曜日に産婦人科全体カンファレンス+放射線読影カンファレンス+化学療法カンファレンス、金曜日に放射線治療カンファレンスを実施しています。

 これらはすべて、修練医が指導医の指導の下でプレゼンテーションをおこない、専門領域の責任者の先生とディスカッションしながら診断・治療法を決定していくものです。その過程を繰り返すことで自分の力で各領域の病態の診断・治療をおこなうことができるようにしっかり訓練されます。また、各領域の最先端の考え方に直接、触れることができ、診療の幅を広げることができます。

5.充実した先端的な技術教育を提供します

多くの症例があっても、見ているだけでは修練になりません。京大病院研修では自ら手を動かし、手術など主体的に取り組むことができる教育体制を敷いています。 

4月から1年間の間にさまざまな技術トレーニングをおこない、習得します。開腹手術だけでなく、腹腔鏡手術やロボット手術の知識や技術が必須であると私たちは考えています。腹腔鏡手術では半年を目安に子宮全摘術を「執刀医として」おこなっていただきます。アニマルラボでのトレーニングを含め、系統的なトレーニングにより腹腔鏡の基礎技術を習得します。開腹術に慣れてから腹腔鏡手術、ではなく、最初から腹腔鏡手術を学ぶ点が京大病院研修の特徴です。

またロボット支援下手術も、1年目から第一助手としての経験を積み、専門医取得前であっても術者として経験を積めるように指導を行います。

6.医局員を中心とした様々な勉強会を提供します

臨床業務など目まぐるしい日々の中でも、新しい知識をどんどん吸収する必要があります。修練医に必要な知識を、効果的に学ぶことができるよう様々な勉強会を実施しています。毎週水曜日8時からオンラインでモーニングレクチャーをおこなっています。医局員の指導医や外部講師が様々なトピックを30分から60分で解説します。医局員であれば、ホームページの会員専用サイトからオンデマンド配信を試聴することが可能です。

また、医局に所属する中堅医師を中心とした「温知会研修委員会」から、面白いと感じる最近のトピックを議論する温知会レクチャーシリーズ(通称「HOPE」)を月に1回オンラインで開催しています。ガイドラインでは説明できない「唯一解のないテーマ」を、医局員を中心として議論するユニークな勉強会です。

鏡視下手術に関する勉強会やビデオクリニック、実技講習会を提供する勉強会(通称「真剣ゼミ」)も定期的に開催しており、若手医局員の交流を深めています。

7.学会発表、論文作成を丁寧に指導します

症例をまとめたり、発表したり、論文を書いたりするのは、最初は面倒で大変なように思えますが、しっかりした指導の下に方法を習得すれば、一生の財産になります。大勢の先生の前で発表するのは苦手と思っていたけどやってみると気持ち良かった、発表の後で他の先生から声をかけてもらった、などの声を聞きます。単に教えてもらうのではなく、主体的に問題点を見つけて学ぶ、解決する、というのはこれからの医学において必須の技術です。研修期間内に、かならず1人以上の指導医がついて年1回以上の学会発表と、査読がある論文作成を目指してサポートをします。

学会発表のスケジュール

8.個人に応じた指導を行います

研修は競争ではありません。産婦人科専門医となるためには幅広い知識や技術の習得が必要ですが、その後どのようなキャリアを目指すかは、自由です。医師人生は長く、途中で息切れしないためには、自分の「やりたいこと」「目指す理想像」を思い描き、途中で振り返りつつ前へ進むことが大切です。そのために、最初にしっかりした産婦人科の「基礎体力」をつけることも必要です。自分の興味があることをきちんと勉強すれば、他のことにも応用できます。そのため一律ではなく個人・個性に応じた指導を心がけています。

9.ダイバーシティを尊重し、理想の職場で働けるように支援します

研修においては、男女に関わりなく適切な修練が受けられることが基本です。

下のグラフで示す通り、現在は女性入局者が男性よりも多くなっています。女性が働き続けることが難しい職場では、産婦人科診療をこれまでのように継続することは難しいと、私たちは考えています。

女性の妊娠と出産、男女ともに行う育児、本人の病気や家族の介護など、皆さんの長い医師人生において仕事や研修を一時的に中断せざるを得ない場面はあります。そのような時にも心配することなく人生のイベントに立ち合い、少しお休みしても安心して仕事に戻れるように、同門会をあげて支援します。誰もが働きやすい職場つくりを目指しており、そのために研修先や修練内容を個人に合わせて考慮します。

悩んだ時や迷った時に、相談できる仲間や上司が多く存在する医局を共につくりましょう。

教室医師の男女比

10.将来のキャリアパスを見据えた指導をします

産婦人科研修は専門研修で終わりではありません。産婦人科専門医を取得後、多くの医師は、4つのサブスペシャリティー(周産期・婦人科腫瘍・生殖・女性医学)をめざします。また、サブスペシャリティーと並行して、内視鏡技術専門医や臨床遺伝専門医等を目指す人もいます。これらを取得するためには、認定を受けた施設で症例経験を積む必要があります。京大プログラムの研修後にサブスペシャリティーの資格を希望するひとには、適切な研修施設を回っていただき、シームレスにこれらの資格が習得できるようにサポートします。

近年は大学での研究を希望する修練医も多く、大学では各分野におけるエキスパートが基礎研究や他の研究室との共同研究など指導を行います。大学院への進学は、京大プログラムでの修練をつんだ先生を優先して案内しています。「こんな研究を行いたい!」という強い動機付けがある先生の相談は、いつでもお待ちしています。気軽にご相談ください。

11. よく学び、よく遊ぶことを勧めます

専門研修は産婦人科としての出発であり、その基礎を築くために厳しい修練が必要と考えています。しかし、効率よい研修のためには適切な息抜きが必要です。京大病院研修では1年あたり10日間の年次休暇を設けています。

定時以降の業務は当直医師への引き継ぎを原則とし、超過勤務の制限や、当直開け業務の軽減を行います。

また毎年の歓迎会や大忘年会だけでなく、定例の同門会(温知会サマーフォーラム)、納涼会、懇親会などのレクリエーションを通じて、大学だけでなく、将来赴任する関連病院の同年代や先輩の先生方との交流も行っています。2020年のCovid19感染流行以降、大規模な懇親会が制限されています。新しい医局でのコミュニケーションの形を、皆で作り上げていきましょう。

2019年 大森キャンブ場にて

主な医局のレクリエーション(2020年以前)

12.広く人材を求めます

京大プログラムでは、全国の医学部卒業生を受け入れており、専門研修医だけでなく指導医の半数が他大学出身です。多様化する産婦人科領域の診療や研究、教育の中で、様々なニーズや思考をもった皆さんを広く受け入れることによって、お互いが刺激し合い、切磋琢磨する環境を提供でき、さらに個々の努力では得られないような無限の可能性を最大限に伸ばすことができる、と信じているからです。また、様々な環境で育った医師を受け入れることで、限られた産婦人科領域のマンパワーのなかで、お互いがお互いを敬い、助け合う精神をプログラムの中で培うことができる、と考えています。

京大病院スタッフの出身大学(2022年4月時点)

日時 京大 他大学
教授 1 0
スタッフ医師 8 8
医員 3 4
修練医 5 5
大学院生 16 7

最後に

京都大学プログラムでは、個人の希望や事情も勘案しつつ、最終的に産婦人科のプロフェッショナルを育てます。私たちは自ら考え行動し、自己実現を目指す医局員を心から応援し、皆が満足して働くことができる職場をすべての関連病院に提供できることを目指しています。ぜひ、われわれと一緒に仕事をしましょう。

京都大学医学部附属病院 産婦人科では

  • 産婦人科専門修練医
    (対象:卒後3年目あるいは他病院の専門研修プログラム中)
  • 産婦人科医員
    (対象:産婦人科専門医取得前後)

を広く募集しています。

見学・面談をご希望の方はこちらにお問い合わせください。
研修に関する質問や相談にも、個別に対応いたします。

京都大学医学部婦人科学産科学教室